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金沢地方裁判所 昭和36年(行)7号 判決 1963年1月25日

富山県新湊市三日曾根三八

原告

東保そとい

同所

東保和雄

同所

東保宏

同所

東保力

同所

東保哲夫

同所

東保昭夫

右宏、力、哲夫及び昭夫四名法定代理人

親権者父

東保喜与四

親権者母

東保そとい

新潟県北魚沼郡小出町佐梨町営住宅

原告

大西晴美

右原告等七名訴訟代理人弁護士

宮林彦九郎

金沢市出羽町二の一

被告金沢国税局長

村井七郎

右指定代理人

豊島利夫

福田隆映

老田実人

野村三郎

中川国男

右当事者間の昭和三六年(行)第七号贈与税等賦課処分取消請求事件につき当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

原告等訴訟代理人は、

一、被告が、昭和三六年金局直資第七―七号昭和三三年分贈与税決定処分審査請求事件及び昭和三六年金局直資第七―一〇号昭和三三年分贈与税についての更正処分審査請求事件について、昭和三六年五月二六日為した審査決定を取消す。

二、高岡税務署長が、東保和雄を除くその余の原告等に対し、昭和三五年一〇月三一日為した昭和三三年分贈与税及び同無申告加算税の賦課決定処分を取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

(当事者双方の主張)

第一、原告等の請求原因

原告等訴訟代理人は、請求原因として、

一、高岡税務署長は、昭和三五年一〇月三一日、

(一) 原告東保そとい(以下、単に原告そといと略称する)は金八〇〇、〇〇〇円、同大西晴美は金四五六、三一〇円、同東保宏、同東保力、同東保哲夫及び同東保昭夫はそれぞれ金四〇〇、〇〇〇円を昭和三三年中に贈与に因り取得したとして、原告そといに金一一〇、〇〇〇円、同大西晴美に金三八、四四〇円、同東保宏、同東保力、同東保哲夫及び同東保昭夫にそれぞれ金三〇、〇〇〇円の贈与税とこれに相当する無申告加算税の賦課決定処分を、

(二) 原告東保和雄は金九〇〇、〇〇〇円を同年中に贈与に因り取得したとして金一三五、〇〇〇円の贈与税とこれに相当する無申告加算税の賦課更正決定処分を、

為した。

二、しかし原告そといは金八〇〇、〇〇〇円、その余の原告等は、それぞれ金四〇〇、〇〇〇円につき、贈与を受けた事実がないとして、原告等は被告に対し、昭和三五年一一月二日付文書を以て、右に関する審査の請求を為したところ、被告は、昭和三六年五月二六日、「本件審査の請求を棄却する。副審査の決定はない。」旨の決定を為し、右決定通知書は、その頃原告等に送達されたが、右決定理由の要旨は、「(一)原告等は、株式会社東保組(以下、単に訴外会社と略称する。)の増資の時、同会社の正規の株式としての引受権を行使した結果払込期日に株主となるから、新株式取得の事実があつたものと認める。(二)原処分庁は株式贈与として、課税したものではなく、新株式払込の払込資金について資金贈与があつたから課税したものであり、たとえそれに因り取得した株式が無価値であろうとも、株式の評価とは直接的な関係はない。(三)株式台帳と株券の名義は訴外東保喜与四(以下、単に訴外喜与四と略称する。)の名義になつてはいるが、株式台帳は原処分庁の実地調査日後に作成され、株券はこの株式台帳を基に発行せなれたものであるから、原告等は実地調査において新株式の株主であつたと認めた原処分は相当である。」と言うにある。

三、本件棄却決定は左の理由により理由不備である。

(一) 原告等が訴外会社の増資の際、株主として引受権を行使した事実はなく、従つて払込期日に株主となつたこともないから、新株式を取得した事実はない。すなわち、訴外会社の代表取締役である訴外喜与四は、元来個人企業「東保組」なる建築業を営んで来たが、事業の一層の発展を計るべく、右企業を株式会社形態へ改めることを企て、昭和三一年に取敢えず右個人企業をそのまゝとし、訴外会社を設立したものであるところ、その株式払込金は全べて同訴外人から出され、ただ株式会社形態を採る以上、一定数以上の株主を必要としたため、同訴外人の思い浮ぶまゝ、それぞれその妻及びその子供である原告等の名義で株式の申込をなし、払込期日に株金の払込が為されたものであつて、原告等が株式の申込をしたり、払込期日に株金を払込んだり、或いは同訴外人が原告等のため原告等の名義でそれ等の行為を為すことに承諾を与えた事実もない。従つて株主となつた者は同訴外人であつて、原告ではなく、訴外会社としても、原告等を株主として取扱つて居らない。訴外会社は昭和三二年に第一回の、昭和三三年九月と一〇月に第二、第三回の各増資を行なつたが、その際も原告等に通知がなく、原告等の不知の間に、原告等名義の株式が増加しただけで、この場合も、真実は訴外喜与四の株式が増加したものであり、原告等には関係のないことである。

(二) 原告等は、訴外会社の株式を贈与により取得したことはない。すなわち、贈与は無償で質産を与える契約であるから、贈与があつたとするがためには、贈与者と受贈者との間に財産移転の合意が必要であるが、他人が原告等に対し、右株式を与える旨表示し、原告等がこれに承諾を与えた事実はなく、原告等は贈与に因り財産を取得した者ではない。尚訴外会社の株式台帳は昭和三五年に作成され、それに基いて株券が発行されたが、それには訴外喜与四の名前だけ記載され、原告等の名が無い。もし、被告等の主張の如く贈与が行われたとするならば、その旨権利移転の事実が記入されていなければならないならないところ、かゝる記載は全くない。

(三) 徴税庁は課税処分に当り、一々実質上の権利者と形式上の権利者とを調査する必要はないにしても、少くとも実質上の権利者が誰であるか判明した時は、その実質上の権利者に課税すべきは、実質課税主義をモツトーとする税法の要求するところであるが、本件において高岡税務署長は、右要請に従い、訴外喜与四の昭和三三年度個人所得税の賦課徴収に当り、訴外会社の株式名義人が訴外喜与四の他原告等をも含んでいたにも拘らず、その実質上の権利者は同訴外人一人であることを認定した上、訴外会社の払込株式金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の全額を訴外喜与四の出資金として同訴外人に対し個人所得税の賦課徴収を為したものであり、高岡税務署長は、訴外会社の株式は形式面が原告等の名義になつていても、その実質において訴外喜与四に属するものとして、かゝる賦課処分を為したものである。然るに、同署長は原告等に対しては右株式が贈与により原告等に属したとして贈与税を賦課したものであり、一つの事実につき背反した結論を採り、二重課税の違法を犯すものである。

(四) 特に、原告そといについては、仮りに原告等の右主張が全べて認められないとしても、夫婦財産の特質から見て、それは贈与とは言えない。すなわち、夫婦が婚姻中に取得した財産は、外形的にはいずれか一方の名義に帰属せしめられるが、それは第三者に対する便宜借置であるに止まり、内部的には本来その共有に属するものである。夫婦は互に協力扶助する義務があるが、我国の現段階では、性的分業が行われ、婚姻費用は一方が負担する反面、他方は家事労働等の無償労働だけをするのが普通であり、この場合、婚姻中に取得された財産は、夫婦双方の協力によるものだから、たとえその財産が一方の名義に属せしめられても、本来共有財産である。ただ、夫婦間の特別の取極めで一方の特有財産とすることが出来るが、この場合、その所得名義が変つたとしても、贈与ではなく、前記共有財産の分割である。つまり、従来、便宜的に一方の名義となつていた共有財産を、夫婦間の合意により分割し、最終的に他方の名義に変更したものであつて、一方から他方への贈与ではない。本件において、原告そといは、訴外喜与四の妻であり、性的分業として家事労働に従事するはもとより、訴外会社の金銭出納事務を無償で担当し、同時に訴外喜与四のために出納事務を担当していたのであり、その結果、取得された財産は全べて訴外喜与四の名義になつたものであるから、本件増資払込資金が訴外喜与四名義の預金中より支払われたとしても、訴外喜与四から原告そといへの贈与ではなく、共有財産の分割に過ぎない。

(五) 仮りに、以上の主張が全べて理由がないとしても、訴外会社の株式は無価値であつて財産でなく、かゝるものを原告等が取得したとしても担税力を生じないから、高岡税務署長の為した原告等に対する本件各贈与税賦課決定処分は違法である。すなわち、訴外会社の設立事情は前記(一)の如くであり、訴外喜与四が企業利益を目的として株金の全部を自分で払込んで設立したものであつて、同会社で受託した工事は自らこれを実施することなく、全べて個人企業東保組で実施する建前を採つていたため、工事施行による利益金の生ずる余地はなく、又それ自身独自の営業所工事機械器具、倉庫作業場等の動産、不動産等財産を所有せず、預金、現金等も僅少であつたから、同会社はその株主に対し利益配当を為す余地は全く無く、又その解散の場合に株主に対し残余財産の分配を為すことを見込むことも不可能であるから、訴外会社の株式は経済的に無価値であり財産ではない。仮りに原告等が右株式を贈与されたとしても、無価値なものには担税力がせず、生じないところに財産課税の原因は生じない。

(六) 原告等は、訴外喜与四から昭和三三年度中に於て株式払込金の贈与を受けた事実は無いから、贈与税の申告書を提出しなかつたことは当然であり、従つて無申告加算税を賦課徴収される謂われはない。

第二、被告の答弁と主張

裁告指定代理人は、

一、原告等の請求原因事実中第一項及び第二項並びに原告そといが訴外喜与四の妻であり、その余の原告等は同訴外人の子供であることを認める。

二、原告等は、「原告等が訴外会社の増資の時、同会社の正規の株主として引受権を行使した事実はなく、従つて払込期日に株主となつたこともないから、新株式を取得した事実はない。」と主張するが、原告そといは、訴外会社の発起人として設立当初の定款に署名して設立に当つて発行された株式総数一、〇〇〇株(払込金額五〇〇、〇〇〇円)の内一〇〇株の株式を引受け、昭和三一年八月二四日開催の創立総会に出席して取締役に選任され、その後も取締役として取締役会に、又株主として株主総会に出席して居り、新株式の発行にあたつてはその都度株主に対する割当新株式をそのまゝ引受け払込をしているし、その他の原告等も設立当初の株式各五〇株の引受を申込み、株主として右創立総会に出席し、且つその後の株主総会にも出席して居り、新株式の発行に当つては、株主に対する割当新株式をそのまゝ引受け払込をしている。尚原告等は訴外会社の昭和三一年八月二四日現在の株主名簿に株主として記載されている。従つて原告等の主張は当らない。

三、原告等は、「原告等は訴外会社の株式を贈与により取得したことはない。」と主張するが、本件課税処分は、訴外喜与四が原告等の所有株式に割当てられた新株式の払込金を調達しているので、原告等に右払込資金相当額が贈与されたものと認めて決定したものであるから、原告等の主張は当らない。

四、原告等は、「高岡税務署長は、一方では、昭和三三年分所得税の賦課徴収に当り、訴外会社の原告等名義の株式が訴外喜与四に属するものとして、同訴外人に対し、個人所得税の賦課徴収を為し、他方ではそれが贈与により原告等に帰属したものとした贈与税を賦課したものであり、二重課税の違法を犯すものである。」と主張するが、高岡税務署長は、原告等名義の訴外会社株式の実際上の権利者は訴外喜与四であると認定したことはなく、又訴外会社の払込株式金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の全額を同訴外人の出資金として同訴外人に対し所得税を賦課徴収した事実もないのであるから、原告等の主張は全く当を得ないものである。すなわち、他人の資産を自己の資産として計上したような場合においてもそれは単に元入金が増加するに過ぎないのであり、訴外喜与四の昭和三三年分所得税について、同訴外人が自己の資産として原告等名義の訴外会社株式を額面相当額で計上しているからと言つて、そのために同訴外人の所得金額が増加すると言うことは有り得ぬのであるから、原告等の主張するような原告等名儀の訴外会社の払込株式金額を同訴外人の出資金として訴外人に対し所得税を賦課徴収したという事実は無いのである。

五、原告そといは訴外喜与四が自己名義の営業から得た収益財産につき、その妻である原告そといの家事労働その他補助的労働による寄与があることを以つて、夫婦共有のものであると主張するが、そのような協力貢献は直ちに収益財産の帰属に結びつくものではなく、離婚、死亡による婚姻関係終了の際に財産分与若しくは相続分等において考慮されることとなつて居り、相続税法においても、この点の考慮もあつて、配偶者に対する相続税について大巾な控除を認めているわけである、

六、原告等は、「仮りに原告等が訴外会社の新株式を取得して株主になつたとしても、その新株式は無価値であつて財産ではない。」と主張するが、そもそも本件贈与税は、新株式の払込資金につき資金贈与の事実に対し課税したものであつて、取得株式は直接の課税原因を為すものではないから、当該新株式の価値は無関係である。仮りに、右新株式の価値について検討するなら、訴外会社の昭和三三年一二月三一日現在の貸借対照表によれば、資産の部に九、九五五、四八〇円の仮払金が記載されているが、これは訴外喜与四に対するものであり、一方同訴外人の右現在の純資産は資産の合計額一〇二、四七九、四六四円から負債の合計額一〇〇、五六二、一七二円(訴外会社からの仮受金を含む)を控除した一、九一七、二九二円であるから、同訴外人は訴外会社からの仮受金を弁済する充分な資力を有するものであり、従つて、訴外会社が資産として計上している同訴外人に対する仮払金は不良債権ではないことになり、訴外会社の株式は額面相当の価値を有するものである。

七、原告等は、本件贈与税について、申告書提出期限である昭和三四年二月末日までに申告書を提出せず、且つ、右不提出につき正当な事田が認められないので、相続税法第五三条第二項により無申告加算税を徴収したものである。

八、原告大西晴美の取得財産の価額四五六、三一〇円は、増資払込金四〇〇、〇〇〇円と北陸銀行新湊支店定期積立金五六、三一〇円の合計額である。

九、原告東保和雄の取得財産の価額九〇〇、〇〇〇円は、当初の決定処分(昭和三四年一〇月二二日付取得財産価額五〇〇、〇〇〇円、贈与税額四五、〇〇〇円、無申告加算税額一一、二五〇円)に増資払込金四〇〇、〇〇〇円を加算した金額である。

一〇、 原告等主張の如く、訴外喜与四が原告等に訴外会社の株式取得資金を贈与したことはなかつたとすると、訴外会社はその設立の当初から現在まで一人会社であり、乙号各証の文書はその殆どが虚偽、偽造の文書で、株主総会及び取締役会の各決議は一切存在しなくなる等全く収拾のつかない事態を招来することとなる。しかし、訴外喜与四は、同訴外会社を正当に設立存続させる意図をもつて、その設立及び爾後の手続を行つたものであり、従つて、同訴外人に原告等に訴外会社の株主としての権利を得させる意思があり、そのために自己の資金を支出したものと言わざるを得ない。他方原告等にこれに反対しなければならない理由がなく、同訴外人と共に原告東保宏らの親権者法定代理人である原告そといにおいてこれを知り、且つ了承していたと認められる以上、原告等のために右支出がなされることを承諾していたものと云わざるを得ない。

と述べた。

第三、被告の主張に対する原告等の答弁

原告等訴訟代理人は被告の右主張に対し、「原告そといが訴外会社の取締役に選任されたこと、原告等が訴外会社の昭和三一年八月二四日現在の株主名簿に株主として記載されていること、原告大西晴美に対し、訴外喜与四が昭和三三年中に北陸銀行新湊支店定期積立金五六、三一〇円を贈与したこと、原告東保和雄が昭和三三年中に五〇〇、〇〇〇円の財産を贈与により取得したこと、訴外喜与四が原告等名義の本件各払込金を調達したこと、高岡税務署長の為した本件課税処分は、訴外喜与四が原告等の所有株式に当てられた新株式の払込金を調達して居り、原告等に右払込資金相当額が贈与されたものと認めて決定されたものであること、原告等が本件贈与税について、申告書提出期限である昭和三四年二月末日迄に申告書を提出しなかつたことは認める。」と述べた。

(証拠)

原告等訴訟代理人は甲第一号証、同第二号証の一ないし四、同第四号証の一ないし四、同第五号証の一、二、同第六号証を提出し、証人武浦克治、同中田スズ子、同東保喜与四、同中瀬信一の各証言、原告本人東保そとい、同東保和雑の各本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認める、と述べた。

被告指定代理人は、乙第一号証の一ないし五、同第二号証の一ないし一八、同第三号証の一ないし四、同第四号証の一ないし一八、同第五号証の一ないし三、同第六号証の一ないし三、同第七号証の一ないし三、同第八号証の一ないし一九、同第九号証の一ないし一九、同第一〇号証の一、二、同第一一号証の一、二、同第一二号証の一、二、を提出し、証人南野清一の証言を援用し、甲第一号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立を認める、と述べた。

理由

一、高岡税務署長が、昭和三五年一〇月三一日、(一)原告そといは金八〇〇、〇〇〇円、同大西晴美は金四五六、三一〇円、同東保宏、同東保力、同東保哲夫及び同東保昭夫はそれぞれ金四〇〇、〇〇〇円を昭和三三年中に贈与により取得したとして、原告そといに金一一〇、〇〇〇円、同大西晴美に金三八、四四〇円、同東保宏、同東保力、同東保哲夫及び同東保昭夫にそれぞれ金三〇、〇〇〇円の贈与税とこれに相当する無申告加算税の賦課決定処分を、(二)原告東保和雄は金九〇〇、〇〇〇円を同年中に贈与に因り取得したとして金一三五、〇〇〇円の贈与税とこれに相当する無申告加算税の賦課更正決定処分を為したこと、原告そといは金八〇〇、〇〇〇円、その余の原告等はそれぞれ金四〇〇、〇〇〇円につき、贈与を受けた事実がないとして、原告等は被告に対し、昭和三五年一一月二日付文書を以つて、右に関する審査の請求を為したところ、被告は昭和三六年五月二六日、「本件審査請求を棄却する。副審査の決定はない。」旨の決定を為し、右決定通知書はその頃原告等に送達されたが、右決定理由の要旨は原告等主張のとおりであつたこと、原告そといは訴外喜与四の妻であり、その余の原告等は同訴外人の子供であること、原告そといが訴外会社の取締役に選任されたこと、原告等が訴外会社の昭和三一年八月二四日現在の株主名薄に株主として記載されていること、原告大西晴美に対し、訴外喜与四が、昭和三三年中に北陸銀行新湊支店定期積立金五六、三一〇円を贈与したこと、原告東保和雄が昭和三三年中に金五〇〇、〇〇〇円の財産を贈与により取得したこと、原告等名義の本件各払込金は全べて訴外喜与四が調達したものであること、高岡税務署長の為した本件課税処分は訴外喜与四が原告等の所有株式に割当てられた新株式の払込金を調達した点をとらえ、原告等に右払込資金相当額が贈与されたものと認めて決定されたものであること、原告等が本件贈与税について申告書提出期限である昭和三四年二月末日までに申告書を提出しなかつたことは当事者間に争いがない。

二、(一) 成立に争いのない乙第一号証の二、四、五、同乙第二号証の一ないし一四、一六、一八、同乙第三号証の一ないし三、同乙第四号証の二、四、同乙第五号証の二、同乙第六号証の二、同乙第七号証の二、同乙第八号証の二、四、同乙第九号証の二、四、を総合すると、原告そといは訴外会社の発起人として設立当初の定款に署名し、設立に当つて発行された株式総数一、〇〇〇株(一株の額面金五〇〇円)払込金額五〇〇、〇〇〇円の内一〇〇株を引受け払込みを為し、創立総会に出席して取締役に選任され、その後も引続き取締役として取締役会に株主として株主総会に出席して居り、昭和三三年九月八日と同年一〇月二八日の二回にわたる同社の増資の際には、合計一、六〇〇株の新株を引受け、且つその払込金八〇〇、〇〇〇円を払込んでその株主となつた事実が認められる。これ等の事実、前記争いのない原告そといが訴外喜与四の妻であつた事実及び証人南野清一の証言を総合すると、訴外喜与四が原告そといに右払込金を贈与したものであることが肯認される。右認定に反する証人東保喜与四、同中瀬信一の各証言、及び原告そとい本人尋問の結果は措信せず、且つ、その外右認定を覆えすに足る証拠がない。

(二) 原告そといは「訴外喜与四が自己名義の営業から得た収益財産は、その妻である原告そといの家事労働その他補助的労働による寄与にも基くのであるから、夫婦共有のものである。従つて、訴外喜与四から原告そといへ財産名義の移転があつたとしても、それは贈与ではなく、共有財産の分割である。」と主張するので按ずるに、我現行法の下では、夫婦の財産は各自別々の特有財産であることが原則で、各自が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己が権利主体となつて取得した財産は各自の所有及び管理に属し、ただ夫婦のどちらに属するか不明のものに限つて共有と推定されるのであり(民法第七六二条)、従つて夫婦の一方が婚姻前から所有している物は勿論のこと、婚姻後の労働による所得は全べてその者に帰属することとなる。成程、通常妻は単に家事労働に従事するのが一般であり、それが夫の所得収入に対し多大の寄与を為すことは肯認し得るが、しかしそのために夫の取得した財産が夫婦の共有財産になるとは言えず、ただこれ等の貢献は法律上離婚の際の財産分与請求、相続の際考慮され得るに止まると解さざるを得ない。従つて、本件においても、訴外喜与四の得た収益に対し、如何にその妻原告そといの家事労働等の寄与があつたからと言つて、前記八〇〇、〇〇〇円の払込金の支出が贈与でなく、共有財産の分割であつたとは言えないから、同原告の主張は理由がない。

三、成立に争いのない乙第一号証の四、同乙第二号証の二ないし一〇、一四、同乙第四号証の一一ないし一六、同乙第八号証の一一、ないし一六、同乙第九号証の一一ないし一六、証人南野清一、同武浦克治、同中田スズ子の各証言、原告本人東保和雄の本人尋問の結果を総合すると、原告そといを除くその余の原告等も、訴外会社の設立に際し、株式の引受を申込み、株主となり、昭和三三年九月八日と同年一〇月二八日の二回にわたる訴外会社の増資の際は、その所有株式に応じた新株の割当を受け、且つそれをそのまゝ引受けて払込みをしていること、即ち、いずれも合計八〇〇株の割当を受け、払込金四〇〇、〇〇〇円を払込んでそれぞれ右新株の株主になつた事実が認められる。これ等の事実と、右原告等がいずれも訴外喜与四の子供である事実を総合すると、訴外喜与四が右原告等に前記各払込金を贈与したものであることが肯認される。右認定に反する証人東保喜与四、同中瀬信一の各証言、及び原告そといの本人尋問の結果は措信せす、且つ、その外右認定を覆えすに足る証拠はない。

四、原告等は「高岡税務署長は、一方では、昭和三三年分所得税の賦課徴収に当り、訴外会社の原告等名義の株式が訴外喜与四に属するものとして、同訴外人に対し、個人所得税の賦課徴収を為し、他方ではそれが贈与により原告等に帰属したものとして贈与税を賦課したものであり、二重課税の違法を犯すものである。」旨主張するので按ずるに、成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、同甲第五号証の一、二、同甲第六号証、同乙第一〇号証の一、二、及び同乙第一一号証の一、二を総合すると、「昭和三三年度における訴外喜与四の営業所得が金一、五二二、二八五円と申告され、且つそれが高岡税務署長によつて認められたこと、同年度における訴外喜与四の貸借対照表資産の部には有価証券(出資金勘定)として金一五、一〇一、八〇〇円が計上されていること、右所得申告の際右貸借対照表が基礎とされ、且つ高岡税務署長も又、右貸借対照表を基礎として営業所得を確認したものであること」を認め得るが、そもそも貸借対照表「資産の部」の有価証券勘定一五、一〇一、八〇〇円の内に原告等名義の株式が含まれているとしても、これを正当額に補正し、「負債及び資本の部」の「元入金」勘定の額を同額だけ減額すれば、「資産の部」および「負債及び資本の部」の各「合計」欄に記載される金額はその額だけ減少し、当初における利益金一、五二二、二八五円は変らないことになる。従つて訴外喜与四の昭和三三年分所得税について、同訴外人が自己の資産として原告等名義の訴外会社の株式を額面相当額で計上しているからと言つて、そのために同訴外人の所得金額が増加すると言うことは有り得ぬのであるから、原告等の主張する如く原告等名義の訴外会社の払込株式金額を同訴外人の出資金として訴外人に対し所得税を賦課徴収したと言う事実は認められない。

五、原告等は、「仮りに原告等が訴外会社の新株式を取得して株主になつたとしても、その新株式は無価値であり、かゝるものを原告等が取得しても担税力を生じない。」旨主張するが、本件各贈与税は、新株式の払込資金につき資金贈与があつたとして課税されたものであること当事者間に争いがなく、してみれば、取得株式は直接の課税原因を為すものではないから、当該新株式の価値の有無は本件課税につき無関係であり、右原告等の主張は意味がない。

六、以上認定の如く、昭和三三年中において、原告そといは金八〇〇、〇〇〇円、同大西晴美は金四五六、三一〇円同東保宏、同東保力、同東保哲夫及び同東保昭夫はそれぞれ金四〇〇、〇〇〇円、同東保和雄は金九〇〇、〇〇〇円を贈与により取得し、且つ右申告書提出期限である昭和三四年二月末日迄にいずれも申告書を提出しなかつたのであるから、これに対し高岡税務署長が昭和三五年一〇月三一日為した贈与税と無申告加算税の賦課決定処分及び賦課更正決定処分は適法であり、さらに右各決定に対して原告等の為した審査請求を棄却した被告の決定も又適法である。

七、よつて原告等の請求はいずれも理由がないので棄却し、訴訟資用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田正武 裁判官 松岡登 裁判官 高沢嘉昭)

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